GPSアートの歴史

GPSアートに関する雑学です。

まずはじめにお断りしなくてはいけませんが、万人受けするような流行の作品を紹介したり、ポップな内容は一切ございません! 申し訳ございません。。
過去に発表したレポートをベースに、ややかみ砕いて書いております。ゆえに美術史や普及学といった、アカデミックなアプローチでGPSアートについて論じています
前例のない考察なので、個人の主観が強い考察です。諸説出てくると思いますので、随時手探りで考証・整理していきます。

はじめに 時系列の分類

時間軸に沿って、大まかに4つの時代に分類しました。
年代ごとに区切っていますが、実際には数年間のずれがあるためゆる~く考えていただければと。

  • 誕生前 1990年代 GPSの誕生、GPSを用いた表現の前身
  • 黎明期 2000年代 GPSドローイングの誕生
  • 発展期 2010年代 テクノロジーの進化と共に発展
  • 普及期 2020年代 コロナ禍を機に普及

誕生前 1990年代

GPSの誕生

現在ではスマートフォンやカーナビで日常に普及したGPSですが、1989年、アメリカ国防省がGPS衛星を打ち上げたところから始まります。
※GPSは、厳密にはGNSS(衛星測位システム)のひとつですが、用語として一般化しました。

その2年後の1991年に勃発した湾岸戦争をきっかけにGPS端末は小型化と低コスト化が進みました。また、同時にアート界でもこの新しいテクノロジーを活用した表現も誕生しました。

アート界への影響 & GPSアートの誕生

GPSは「移動した座標」を「時系列に沿って」「記録」することができる装置として、メディアアーティストによって表現のツールとして活用されました。
現代アートの世界では、1992年に藤幡正樹がGPSを用いた富士山の登山データを収集・分析し、変形した富士山のオブジェ「生け捕られた速度」を発表しました。また、1995年には建築家ローラ・クルガン(Laura Kurgan)がGPSによるリアルタイムマッピングとヘッドアップディスプレイを活用したインスタレーション「You Are Here」を発表します。これらが、アート界における初期のGPSを活用したアート作品といわれます。

Reid Stowe ”turtle”当初彫刻やインスタレーション、パフォーマンスアートの要素が強かったGPSアートですが、GPSの小型化と精度が劇的に向上し、ランドアート(岩、土、木、鉄などの「自然の素材」を用いて砂漠や平原などに作品を構築する美術のジャンル)との融合が試みられました。
GPSが記録した軌跡によって最初に描かれた作品は、1999年、アメリカのアーティスト・船乗りのリード・ストウ(William Reid Stowe)がスクーナー船(帆船)で大西洋に描いた5,500マイルのウミガメといわれています。彼は、自らこの技法を”GPS Painting”と名付け、この後も世界中の海にハートやクジラを描きました。
2000年11月、イギリスのアーティスト、ジェレミー・ウッド(Jeremy Wood)とヒュー・プライアー(Hugh Pryor)は、移動した軌跡をGPSで記録し、その軌跡でドローイングする手法(GPS Drawing)を発達させました。この作品群が、現在普及している「移動した軌跡で地上絵を描く」スタイルの礎となっています。

The Wallingford Fish which is the very first GPS drawing.
The Wallingford Fish
ジェレミー・ウッドとヒュー・プライアーが描いた全長108kmにおよぶ魚は、もっとも初期に描かれたGPSアートです。

GPS Drawing が生まれた背景には、3つの外的要因があったと考えています。

背景1 イギリスのランドアート

Richard Long屋外の大規模インスタレーションのイメージが強いランドアートですが、読み解くと、さらに細分化されたジャンルが存在します。
アメリカの広大な大地に大規模な建造物を造成することから始まったランドアートは、イギリスに渡ると自然環境の特性を極限まで生かした表現に進化しました。その最前衛としてリチャード・ロング(Richard Long)の影響が大きいと考えています。彼の作品は「移動」をテーマとし、広大なフィールドでの移動記録を芸術表現のひとつとして昇華しました。
GPSドローイングの誕生は、イギリスのランドアートからの系譜であり、また、リチャードロングにインスパイアされたGPSアート作品も発表されています。

彼らウォーキング・アーティストとよばれるランドアート作家のアート作品とGPSアートの大きな違いは、前者は内面的・精神的な部分を追求したのに対し、後者は外面的・表象的な部分を表現の主軸にしたことです。
ただし、共通点として自然と会話することによって生み出される芸術的表現であったことは、押さえておくポイントです。

背景2 GPS受信デバイスの小型化

beginning of e-trax series現在はランニングウォッチのブランドとして認知されている GARMIN ですが、GPS衛星が打ち上げられた1989年、GPS技術に基づいた受信機のメーカーとして誕生しました。
1990年代前半はランドセルサイズのGPSレシーバーでしたが、小型化が進み、1998年に発売されたGPSレシーバー eTrex シリーズでは、片手で持ち運べるまでに進化しました。
GPSの小型化が進んだ結果、ウォーキングやランニング、トレッキングといった、カジュアルなアクティビティにも携帯可能になりました。

背景3 GPSの測位精度の向上

GPS satelliteアメリカ国防総省が所有するGPS衛星から発信される測位信号には、軍事用と民生用の両方が存在しています。
我々が利用しているのは民生用の測位信号ですが、元々、アメリカ国防総省の方針により測位精度を落としていました。
ポイントは「GPSの精度はアメリカの都合でコントロールできる」ところで、1990年代は有事に軍事用レシーバーの供給が間に合わなくなった際に、民生用レシーバーを代用したため一時的に精度を上げたりしました。

一方、民生用レシーバーの開発も進化を遂げていました。
カーナビを中心にGPS衛星の誤差を補正する技術が発達し、端末の普及が促進しました。

そして契機となったのは2000年5月2日。
アメリカのクリントン政権がGPS測位精度の誤差を解除しました。
これ以降、民生用GPSは数十メートル単位から数メートル単位へ精度が向上し、この技術を用いたサービスも進化を遂げました。

黎明期 2000年代

日本への普及

石川初の描いたタモリのGPS地上絵2000年に登場した GPS Drawing は、日本にも普及します。
2003年、ジェレミー・ウッドに感化された東京スリバチ学会の石川初が日本で初めてGPSドローイングを制作
この活動が、2005年4月「タモリ倶楽部」で放送されました。これがきっかけで、GPSでお絵かきできることが大山顕をはじめとした地形マニアを中心に広がりました。

Yassan MarryMe2008年には、アーティストのやっさん(Yassan)が日本列島を縦断したGPS絵画を発表。2010年に最大のGPS Drawing」としてギネス世界記録に登録されました。
初めて公的に認定されたGPSアートであり、大規模作品の先駆けとなりました。

London Circle Walk海外でも現代アートの系譜での制作が試みられました。2011年、イギリスの建築家ティム・ウィルソン(Tim Wilson)とマイケル・ブルンストローム(Michael Brunström)は、リチャード・ロングの制作スタイルに感化され「ロンドン・サークル・ウォーク(The London Circle Walk)」を発表
以後、Facebookページを通してウォーキング会が不定期に開催されています。

また、これと似た系譜として、2015年に「ロンドン・スパイラル・ウォーク(London Spiral Walk)」が生まれました。2019年まで5年の歳月をかけてロンドン中心部のキングスクロス駅から郊外のテムズ川河口に向け、全長約200マイル(約320km)のらせんを描きました。

GPSでお絵かきする人が増えた背景には、3つの要因があったと考えています。

背景1 情報技術の発達による、専門知識の一般化

従来は電話回線を利用していたインターネットは、商用ADSLが1999年にスタート、2001年から本格普及しました。
大容量(現在と比べたら微々たるものですが)かつ固定価格でデータのやり取りができることになり、従来はテキストベースだった情報が、静止画ベースの情報が中心に進化しました。
2004年頃からより大容量の通信を可能にする光回線が爆発的に普及。
モバイル・ワイヤレス通信の普及に伴い、動画ベースの情報が一般化しました。

また、大容量通信が可能になったことから、従来のマスメディアに代わり、個人が情報を発信しやすくなりました。
従来は専門誌でないと入手できなかった専門的な情報・知識が、個人の発信するホームページやブログを通して、容易かつ安価に入手できるようになりました。

背景2 マッピングサービスの登場による、技術の一般化

GPSアートの初期は、GISソフトウェア「カシミール3D」が主に活用されました。標高データを立体化できることが特長で、主に登山者や地理オタクの間で利用されていました。
これほど高機能なソフトウェアが無料、しかもたったひとりのエンジニア(DAN杉本)によって開発されていたのは驚きです。

ブロードバンドが普及しきった2005年、オンラインサービスグーグル・マップ(GoogleMaps)とグーグル・アース(GoogleEarth)がサービスイン。
インターネット上で地図を見ることが一般に普及しました。
また、これまでは専門的なソフトでないと扱えなかったGPSデータが、マッピングソフトを通して手軽に連携できる契機となりました。

余談となりますが、広告業界はいち早くこのテクノロジーに注目した広告表現を採用しました。
2006年11月、ケンタッキーフライドチキンがアメリカ・ネバダ州に「宇宙からも見える巨大広告(KFC Face From Space)」を設置し、グーグルアースでも閲覧できるようにしました。
また、同年、映画「パイレーツ・オブ・カリビアン(Pirates of the Caribbean / Dead Mans Chest)」のPRとして、架空の海賊島がグーグル・アースのカリブ海に登場しました。

グーグルアースを用いたプロモーション事例

背景3 民生用ポータブルGPSの普及

カーナビの普及に伴い、大量生産による低コスト化が進みました。
車載型でない安価なポータブルカーナビが普及したのもこの頃です。

一方、アウトドア向けポータブルGPSが普及。
位置情報と深くかかわるアクティビティ、特に登山家やフィッシング愛好家の間で広がりました。

番外編 フェイクニュースによるGPSアート

2008年5月、スウェーデンの美術学校生エリック・ノルデナンカー(Erik Nordenankar)が、アタッシュケースに収納したGPSを用いて国際宅配サービスDHLに指定場所を細かく指定して地球に自画像を描くプロジェクトを発表しました。テクノロジーメディアサイトGizmodoが報道したことで世界的に知られるところとなりましたが、その数日後にフェイク(実際には描いていない)であることが発覚しました。
ただし、「GPSでお絵かきできる」という事実が、テクノロジーに敏感な層に広く認知されました。

発展期 2010年代

一部のマニアやアーティストの間で始まったGPSアートですが、マスメディアによる発信で普及しました。
GPSアートを広告表現やエンターテイメントに導入した企業が登場し、それを目にした人を通して「GPSでお絵かきできる」ことの認知が広がりました。
この時期の特徴は、マスメディアを通したネットミームが主な伝達手段だったため、「(移動を記録する)手段・ツールとしてのGPSアート」として捉えられる傾向が強いことです。また、ポップカルチャーとの融合により、描かれるモチーフは既存の有名人やキャラクター、動物等のお絵かき(Doodle)が多いことも顕著でした。

広告業界の動向

FIAT Driving Art Project日本では2007年にFIATが新車プロモーションの一環として、自動車で描くGPSアート FIAT Driving Art Project を発表したのが先駆けです。(担当:オグルヴィ&メイザ―)
イタリアを代表するアーティスト・ダヴィンチに扮するパフォーマーが新型車500に乗り、日本の都市圏(東京、東海、福岡)にダビンチに関するアート作品を描きました。
また、その制作過程は、当時は主流だったブログを通して発表されました。

SONY Tokyo Zoo Project転機となったのは2010年、ソニーのポータブルカーナビのプロモーション Tokyo Zoo Project が世界中の広告賞を多数受賞したことにより、GPSアートが広告業界で広く認知されました。
東京の各地に、自転車で動物のGPSアートを15種類制作しました。(担当:フロンテッジ)
このキャンペーンを制作した広告代理店・フロンテッジは、数年後にGPSアートを制作できるランニングアプリ「ラングラフ(RunGraph)」を発表しました。広告業界のGPSアートに対する情熱が伺える事例となりました。

Nike_RunLikeMe2012年、ナイキジャパンが日本在住のイギリス人GPSランナー・ジョセフ・テイム(Joseph Tame)を起用し、新商品のランニングシューズ LUNARGLIDE+ 4 のプロモーション RunLikeMe を展開。(担当:ワイデン+ケネディ)Facebook の反響と連動した作品を発表しました。
特徴的だったのは、「ソーシャルメディアを通した作家とのインタラクティブ性」です。当時の広告業界では、企業のSNSアカウントを運用したり、プロモーションの媒体でSNSを活用するトレンドがありました。

2014年、オランダのスポーツブランド HI-TEC が、ショートドキュメンタリーを動画サイトに投稿する Walkumentary Series でやっさん(Yassan)の活動を紹介。これが契機となり、世界中のニュースメディアを通してGPSアートが一般に広く知れ渡りました。

Vauxhall Halloween Messageその後、大型作品を制作するプロジェクトが広告手法のひとつとして発達しました。
2014年にはイギリスの大衆車メーカー Vauxhall が、ジェレミー・ウッドをサポートしてイギリス全土にハロウィンメッセージを制作
この作品は、「グループで描く最大のGPS Drawing」としてギネス世界記録に認定されました。GPSアートの記録ジャンルが細分化された最初の作品となりました。

2015年には日本航空が、やっさん(Yassan)をサポートして世界一周して描く「世界一巨大な平和メッセージ」を制作しました。
世界各地の人にGPSのスイッチを操作してもらうことにより、人種や国・地域を超えた人々の手によってひとつのメッセージを描きました。
ギネス世界記録には未登録ですが、現存する世界最大のGPSアートとなっています。

その後、Phillips や Chevrolet の他、多くのモビリティ企業が大規模作品を発表しています。

共通しているのは「移動することによるアイデアが作品の価値を決定し、インターネット上で評判になる」「作品がテーマ・メッセージ性を持つ」点です。一部例外はありますが、直接的に商品名やブランドメッセージを描くプロモーション型の表現ではなく、描く行為そのものをサポートすることにより、企業のブランド価値を高めていこうとするPR型の表現に寄った点も特長でした。

もうひとつ、日本におけるプロモーションの特徴ですが……実行されたほとんどのキャンペーンは、外資系の広告主と広告代理店が関与しており、国内の企業はほとんど関わっていない点です。主な要因として、日本独特の意思決定プロセスの他、新規性・独自性の高いクリエイティブに慎重な日本の広告・プロモーション業界の体質も影響していると思われます。

エンタメ業界の動向

ミュージックビデオでは、2010年、アメリカのロックバンドオーケー・ゴー(OK Go) がレンジローバーのスマートフォンアプリを用いてロサンゼルス市内をパレードしながら、自身のグループ名を描きました
音楽業界ではミュージックビデオによるプロモーションが盛んな土壌があり、マッチした実例となっています。

ラジオでは、J-Waveが周年事業としてジョセフ・テイム(Joseph Tame)が監修し、放送局ロゴを東京全土にわたって描きました

おにぎりあたためますか GPSアートの旅テレビでは、2016年から2018年にかけ、北海道放送「おにぎりあたためますか」が「GPSアートの旅」をレギュラー枠で2年半にわたり放送
お笑い芸人コンビオクラホマがGPSアーティスト・やっさん(Yassan)監修のもと、ヒッチハイクしながら北海道全域に番組ロゴを描きました。

他、番組制作目的でGPSアート制作に挑戦した著名人として、わーすた や SKE48、SixTONESをはじめとしたアイドル、獣神サンダーライガーといったアスリート、スピードワゴン、コカドケンタロウといったコメディアンが挙げられます。

映画業界では、「アイアン・スカイ(2012年:バンタンデザイン研究所)」や「侍マラソン(2019年:顔マラソン)」のプロモーションとして採用されました。

アイアンスカイとサムライマラソンのGPSアート

ランニング業界の動向

2011年の東京マラソンに落選したことがきっかけで、マラソンと同じ距離で顔を描く代替イベント「顔マラソン」が Hama(浜元信行)によって発明されました
特長的だったのは「全コースの距離がマラソンと同じ42.195km」「各都道府県に公式コースがある」点でした。
グループランイベントとして普及し、現在もファンを中心にランニング会が開催されています。

トレンドとテクノロジーが、GPSアートと結びついた結果、広がる形となりました。
背景として、3つの要素が挙げられます。

背景1 オンラインサービスの普及

2005年にYouTubeが設立され、2004年と2006年に、巨大SNSともいえるFacebook と Twitter がサービスイン。
日本に本格的に普及するのはその数年後ですが、これをきっかけに「自身の近況をインターネット上で公開し、不特定の他者から評価を集める」トレンドが生まれました。

転機を迎えたのは2010年に画像ベースのSNS、Instagtram と Pinterest が始まったことです。
不特定多数へ発信できるSNSのトレンドは、テキストベースからビジュアルベースの情報へ広がりました。

「バズ」の概念が使われ始めたのもこの頃で、主に広告業界を中心に「バズになるコンテンツをオンライン上に配信する」文化が発達しました。
同時に、広告・プロモーションに活用できる「バズになるネタ」を探していました。
ユーザーに寄り添い拡散されやすくするため、自社のSNS開設や、拡散されやすそうな動画をYouTubeに配信するトレンドが生まれました。

ここで重要なポイントは、誰もがよりカジュアルに情報を発信することができるようになり、オンラインによるコミュニケーションが浸透したことです。

背景2 スマートフォンの普及と精度の向上

これまでのポータブルGPSデバイスは、GPSロガーや高価なランニングウォッチが中心で、一部の専門家を中心に普及している程度でした。

転機となったのは2008年、GPSを搭載した携帯電話端末 iPhone3 が発売されたことです。
また、同時にランニングを管理するためのアプリが登場しました。
現在でも主力のアプリRunKeeper、Strava、Runtastic、Nike+ は、全て2008年に登場しています。
当時は「ランニングペース」や「走った距離」を計測する目的が主で、「どこを走ったか」はそこまで注目されていませんでした。
ここで重要なポイントは、誰もが手軽にGPSのテクノロジーを扱えるようになったことです。

2010年以降は位置情報の開発競争が進み、GPS以外の衛星測位システム(GLONASS、Galileo、QZSSなど)の他、衛星以外の位置情報測位システム(携帯基地局、Wifi、Bluetooth等を活用)のサポートによる補正技術も発達し、スマートフォンの位置測位精度がますます向上しました。

背景3 ランニング・サイクリングとの融合

コミュニケーションの手法が変化したため、ランナーに新たな目的が付加されたことです。
従来は自身の健康や目標達成を目的とした「自己完結型の目的」が主体でしたが、コミュニケーションの変化により「自身の活動を発信」することが付加されました。
まだまだ亜流ですが、「ベストタイムの更新」や「大会への出場」を主なモチベートとしていたランナーに、あらたなモチベートとして「走ったコースでお絵かきする」文化が生まれました。

特筆すべきはアスリート向けのアプリ STRAVA が、GPSアートを後押ししたことです。
STRAVAART という造語は、世界的に発信されるGPSアートの一部を占めるようになりました。

普及期 2020年代~

GoogleがGPSアートを特集

2019年、Googleのテクノロジーを使って大きな問題を意外な方法で解決していく世界中の人々の姿を描いたオリジナルドキュメンタリーシリーズ Search On. で、GPSアートでプローズしたアーティストのドキュメンタリーが発表されました。
GPSアートがひとつの表現ジャンルとして広く確立される契機となりました。

現代アートの殿堂がGPSアートを展示

2019年、東京都現代美術館の企画展「ひろがる地図」において、Hama(浜元信行)とやっさん(Yassan)の合作による、イギリスを代表する彫刻家ナイジェル・ホール(Nigel Hall)のオマージュ「”無名の土地への入口”への道」を展示。
従来はサブカルチャーであったGPSアートが、アート業界に進出するきっかけとなりました。

無名の土地への入口への道

コロナ禍による価値観の変化

2020年初頭から始まった世界的なコロナ感染予防トレンドの中、集団での行動が制限されました。
必然的に密となるマラソン大会が軒並み中止になる中、GPSアプリで一筆書きする「お絵かきラン」の人口が爆発的に増えています。

普及学の視点で、イノベーション要因を整理しました。

比較優位 (従来のアイデアや技術と比較した優位性があるか)
多くの市民マラソンやグループランが中止になる中、人同士が集まらなくても実施できる点がコロナ禍において優位となった。

適合性 (個人の生活に対して近いか)
日常のランニングの延長として参加しやすい形態だった。

わかりやすさ (使い手にとってわかりやすく、易しいか)
「成果物が走った軌跡で、それが絵やメッセージになっている」点がわかりやすく、参加しやすそうに見えた
また、その分かりやすさゆえ、大会出場や自己ベストに代わる、新しいモチベーションの形として市民ランナーが採用している。

試用可能性 (実験的な使用が可能か)
普段使用しているスマートフォンやランニングウォッチを利用するだけで制作できてしまう手軽さ。

可視性 (採用したことが他者に見えやすいか)
ランニングアプリやSNSを通して成果をシェアしやすい土壌があった。
特にランニングアプリ上でランニングコースをシェアする土壌があったことが大きく貢献した。

GPSアートコンクールの普及

コロナ禍の影響で、「集まらないマラソン大会」としてスマートフォンアプリを活用した「オンラインマラソン」が普及。日本国内では名古屋ウィメンズを皮切りに、一気に広まりました。
オンラインマラソンの普及と同時に、マラソン主催者側でも「他マラソン大会との差別化」も課題になりました。地方マラソンの強みである「地域の独自性」をアピールする手段として、地域の特産物を景品にしたGPSアートコンクールも併催。マラソン大会とは直接関係のない民間企業や自治体にも、単独イベントとして広がっています。
参加者が集まれないための代替イベントとしての位置づけが強かったため、コロナ後の動きに注目です。

主なGPSアートコンクール

  • 京都マラソン
  • 佐賀マラソン
  • 金沢マラソン
  • ドール「バナソン」
  • WeRUN「GPSアートアワード」
  • 石川県「石川県ごみ拾い・GPSアートコンテスト」

スポーツブランドのブランディングツールに

2022年にナイキが、GPSランからインスピレーションを受けた「GPS RUN」コレクションをリリース。
翌2023年にはGPSアートイベント「MAP YOUR RUN 2023」を開催。生誕40周年を迎えるナイキのペガサスを祝してInstagramにモザイクアートを展開しました。

NIKE GPS ART COLLECTION
NAIKE MAP YOUR RUN

ラグビー日本代表を応援

フランスで開催されるラグビーW杯を控えた2023年夏、元日本代表キャプテンである廣瀬俊朗が発起人となり、日本代表チームの公式スポンサーである三菱地所が「日本列島に描く巨大応援メッセージ」をGPSアートで制作するプロジェクト「ONETEAM大作戦」を実施。
一般公募で選出された応援団長が特別仕様のエールカーに乗車し、日本列島をキャンバスにGPSアートを制作。道中では各地でミニイベントを実施し、地域住民から応援メッセージを集めています。

ONETEAM大作戦のイメージ

まとめ

最後までご覧くださりありがとうございました。

普及学の視点で俯瞰すると、長らく一部マニアやイノベータ―層を中心のGPSアートでしたが、コロナ禍をきっかけにアーリーアダプター、アーリーマジョリティに波及していく様相を見せている、と感じます。

こうやって振り返ると、自分自身が1990年代から無意識にGPSを用いた表現に関わっていたことに気がつきました。
いつの間にか生き証人みたいになっていました。。。
まだまだ何十分の一にも満たないため、本気で文章化したら本が一冊出版できる気がしてきました。
(マニアックなジャンルですが、もし興味のある出版関係者はお声がけくださいませ!)

本当に出版社よりお声がけいただき、2022年8月、出版に至りました!
よりマニアックなストーリーでどこに需要があるか不安ですが、ぜひご購読くださいませ。

地球に描こう! GPSアート
Yassan(高橋康) 著
A5判/160ページ 定価1,980円

地球に描こう! GPSアート
技術評論社HP

アフターコロナの価値観にGPSでお絵かきする文化がどのように適合し進化するか、引き続き注目していきたいと思います。

また、このサイトでは誰でも気軽に描けるコースを公開しています。
日本国内を中心に2,000以上。ぜひご覧ください。

  1. C(茨城県水戸市)のGPSアート

    C(茨城県水戸市)5km

  2. C(福島県福島市)のGPSアート

    C(福島県福島市)3km

  3. C(山形県山形市)のGPSアート

    C(山形県山形市)5km

  4. C(秋田県秋田市)のGPSアート

    C(秋田県秋田市)5km

  5. 日本国花苑(秋田県井川町)で、さくらんぼ🍒1.3km

  1. フェンシング(東京都杉並区)12km

  2. 富士登山(静岡市)19km

  3. 恐竜(東京都・杉並区)18km

  4. おすわりカエル(東京都杉並区)15km

  5. ウルトラマン(石川県金沢市・野々市市・白山市)100km

過去のコース